耐えろ、俺
「敦賀さん、どうぞ」
「有難う。・・悪いね、いつも」
「いいえ。・・先程までツマミなしでお酒を飲んでいましたよね?・・胃に悪いですよ?」
「はは・・」
オフで一日家でくつろいでいた俺のもとに、夕方、最上さんがやって来た。
仕事の合間をぬってマンションに戻ってきたと言う彼女。
そのまま俺の部屋に来たようだ。
彼女らしい手際の良さでどんどんツマミを作ってゆく。
彼女は俺と同じマンションに住むようになってから、度々遊びに来るようになった。
というのも・・・
最上さんと俺は最近男女のお付き合いを始めたからだ。
彼女も俺の事を想っていてくれたと知った時は正直信じられない思いだった。俺の想いが届くとは思っていなかったからだ。
何事も一生懸命にこなし、自分よりも他人を優先して動く、優しい子。
他人の為ならば加減さえ忘れて没頭してしまう彼女の性格。
そんな性格が仇となって、前回の恋は彼女にとって相当な痛手になった。
もう恋などしないと、心を氷で固めてしまうほどに。
そんな彼女がもう一度人を・・俺を好きになってくれた。
どんなに嬉しかったことか!
彼女の良さに気付くのがちょっと遅くなってしまったが、今では手放す事など決してできない程、俺の中で存在を占めている。
「どうかなさったんですか、敦賀さん?・・」
「いや、別に・・最上さん、可愛いなって見惚れていただけだよ?」
すると、顔を赤くしながら「からかわないでクダサイ
」と言いながら、パタパタと急ぎ足で玄関へ向かう。「では、敦賀さん。また後ほどお邪魔致します」
「ああ、頑張っておいで」そう言って彼女を抱き締め、キスで見送る。
服に残された彼女の香り。まだ自分の腕の中にいるような錯覚を覚える。
彼女がその身体の全てを俺にさらけ出してくれるのは一体いつになるのか・・・
それを考えると身体が熱く火照りだす。
・・・ああ、本当に。彼女が・・欲しい・・・・
心と体の疼きを埋めるように俺は再びボトルに手を伸ばした・・

数時間後。
仕事から帰ってきた彼女がキッチンに向かうと、開口一番こう叫んだ。
「な、なんですかぁぁ、このボトルの数はぁぁ
」口をあんぐり開けて固まっている。「・・見つけちゃった、かな?」
空ビン、隠して置いといたんだけど・・な?
「かな?じゃありませんよ、かな?じゃ!・・・」
「・・私が仕事に行っている間に何故こんな事に・・敦賀さんとあろう人が、こんなに・・
」「お酒クサイなんてぇぇぇぇぇっ!あり得ません、ファンが見たら泣きますよ、絶対に
」「傷つくな、最上さんにそんな事言われると」
「事実なんだから仕方ありませんっ!・・それに何か、目が据わっているし・・」
「そんな事ない・・」「ありますっ!」
「せっかく今日は・・・・だったのに・・ボソッ」
膨れっ面で横を向く彼女。可愛い
・・・・・あれ?
・・待てよ・・何か、今俺にとって都合のいい台詞が・・
彼女から・・聞こえなかっただろうか?
「・・最上さぁん、今、なんて・・言ったの?」
「うわ、
お酒クサっ・・嫌です、酔っ払いには関係ありませ・・は、放してクダサイぃぃっ!」「駄目だ!言いなサイっ
」俺が絡むと、泣き出しそうな、それでいてちょっと恥ずかしそうな顔で、「今日は、このまま・・その、敦賀さんのお部屋で一緒に夜を過ごそうと思って・・」
「乙女を捨てる覚悟を決めてきたんです!・・なのに・・敦賀さんは・・酔っ払いだし・・」
・・・・・な、にっ!
さり気なく大胆発言をする彼女に、俺の思考回路は一瞬停止し・・チャンスを逃すまいと慌てて弁明する。
「も、最上さん?その、ね?・・酔っててもちゃんと行為は出来・・」「・・初めての女の子に酔ったまま勢いでするなんて、紳士の敦賀さんは絶対にしませんよね?」
ギロリ
、と睨まれ凄まれる。だが次の瞬間、「そんな事は嫌です、お願い敦賀さん・・無理強いしないで
・・」涙目で上目遣いで俺を見つめる彼女。・・うっ!
可愛い
!なんて可愛いんだ、君は!本能と戦いながら、できるだけ優しく最上さんを抱きしめた。
「ああ、約束するよ。大切にするから」
「・・約束ですよ?」彼女は俺の目を見つめて言った。
「ああ、必ず・・」
約束するから、と答えながら彼女にキスを送った。
「あ、俺」酒の匂いを気にすると、「今は気になりません」と、
ほんのりと頬を赤く染めた最上さんは、俺に優しい嘘を言いながらキスを求めてきた。
ごめんよ、最上さん・・
キスに応えながら、そっと心の奥で謝罪する。
「大好きですよ、敦賀さん
」と可愛い台詞を紡ぐ彼女の唇にもう一度口付ける。「ん・・っ、」
熱を上げる心と体。
次第に激しさを増すキスに、二人はそう遠くない未来に一つになる事を体で感じていた・・・
おしまい

タイトル 耐えろ、俺
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